書籍
興亡の世界史 東インド会社とアジアの海
羽田正(著)
講談社 / 2017年11月10日
書評
本書は東インド会社の興亡という切り口で17世紀から18世紀の世界を記述しています。特定の地域の歴史を時系列に見ていくのではなく、東インド会社というレンズを通して各地域の関係を見ていくという試みです。
アフリカや新大陸も含めた世界全体が商品流通と人の移動によって緊密につながり人類史上ではじめて地球がほぼ一体化したのは、十六世紀になってからである。まだそれほど大きな流れとは言えないかもしれないが、現在から振り返ってみると、この時期の人とモノによる地球の一体化こそ、その後の世界史の流れの方向を決める大きな要因だった。
東インド会社に先立って、十六世紀にヴァスコ・ダ・ガマがインド航路を開拓して交易を始めるところから始まります。ヴァスコ・ダ・ガマが暴力的な手段を当たり前のように使っていたことや、当時のポルトガルが貧しくインドが豊かであったことなどが、当時のインド海域の文化を踏まえながら紹介されていきます。十六世紀の終わりには、ポルトガルによるインド航路はヨーロッパでよく知られるようになり、オランダとイギリスが東インド会社を設立します。しかし会社としての性格は、軍事力の有無や資本の集め方など大きく異なっていました。また、当時ヨーロッパでは国民国家の概念が形成され始めていた一方で、インド洋海域の王権は外(ヨーロッパ)からきた人々を特に区別せず扱っており、このような国家や統治に関する考え方の違いが東インド会社という組織の在り方にも影響を与えていきます。
日本についての記述も結構あリマス。十六世紀のイエズス会による布教活動やじゃがたらお春など東インド会社と関わりのあった日本人についても紙面が割かれており、当時の人々の生活について知ることができます。また、貿易の対象となった胡椒など香辛料、茶、織物や貴金属がヨーロッパと日本を含むアジアでどのように売買されていたかもわかります。
現代日本では、ポルトガル人が初めて来航した十六世紀以来、日本は常に先進的なヨーロッパ文化にあこがれ、これを受け入れてきたとする歴史理解が依然として根強い力を持っている。しかし、この見方はそろそろあらためられるべきである。少なくとも十八世紀の末までは、世界のどこかの地域の文化が圧倒的に他の地域の文化より優勢だったわけではない。北西ヨーロッパ地域がアジアにあこがれ、その文化を摂取していた局面も多くあったのである。
十七世紀から十八世紀という時期はフランス革命やアメリカ新大陸の発見など大きな出来事がありますが、間接的に東インド会社によるインド洋海域での貿易活動と繋がっていることにも触れられており、この頃からグローバル化が始まっていたんだなと思いました。