書評

【書評・感想】最古の文字なのか?氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く【人類の認知能力の起源】

2021年7月11日

書籍

最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く (文春e-book)

最古の文字なのか?氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く
ジュネビーブ・ボン・ペッツィンガー(著)、櫻井祐子(翻訳)
文藝春秋 / 2016年11月10日

評価 :5/5。

書評

本書では洞窟壁画に記された記号を追うことにより、太古の人々の文化や信念体系、コミュニケーションの発達などを明らかにしていきます。人類学の分野では洞窟壁画の研究は必ずといっていいほど動物を対象としており、近くに描かれている記号については体系的に研究されてきませんでした。なお、著者は大学院博士課程に在籍中に本書を執筆しています。

これまで人類の認知能力が発達したのはアフリカを出てヨーロッパに到達した後からだと考えられてきました。しかし、アフリカでの洞窟発掘調査が進むにつれてこの説は説得力を失いつつあり、今ではアフリカにいた頃から徐々に認知能力が発達し現代人と相違ないレベルだったことが示唆されているようです。著者の研究はこの説を概ね補完する結果となっています。

洞窟壁画の記号を大量に収集・データベース化することで、ホモ・サピエンスがアフリカから移動した経路や認知能力の手がかりを探る内容となっています。本書のタイトルは文字にフォーカスが当たっていますが、あくまでも洞窟壁画に記された幾何学記号が研究対象であり実際の内容とは合致していないように思います。しかし、これまで研究対象になっていなかった分野だけに今後も新しい発見が期待でき、非常に面白い書籍でした。