書籍
テクノロジーの世界経済史 ビル・ゲイツのパラドックス
カール・B・フレイ(著)、村井章子(翻訳)、大野一(翻訳)
日経BP / 2020年09月18日
書評
技術の進歩に対して人々がどのように対応してきたのかを、産業革命の時代を含めて過去数世紀に遡って分析しています。近年の人工知能の発展、実質的には深層学習を含む機械学習の急激な進歩が人々の仕事を奪ってしまうのか?というような未来予測に近い問いに対しても、一定の見方を提示する内容になっています。
新しいテクノロジーが出てきたときに2つのタイプに分類して話が進んでいきます。一つは既存の労働者がテクノロジーに置き換わり仕事が消滅する労働置換的なタイプ、もう一つは労働補完型でテクノロジーが労働者のスキルを引き上げてより生産性の高い作業をこなせるようになるタイプです。労働置換型のテクノロジーが普及し始めるとスキルの高い労働者の需要が増える一方で、中流の労働者の仕事が減少してより報酬の低い仕事をせざるを得なくなります。社会全体で見るとテクノロジーが進歩することで人々の暮らしぶりは良くなることは間違い無いですが、その過程で一部の労働者に負担を強いる事になる可能性があり、ここが社会課題になってきます。これは技術や経営の問題ではなく、どのように富を再配分するべきかという政治的に解決すべき課題であると述べられています。
最後の章では機械学習が労働置換的技術なのか労働補完的技術なのかを含めて、我々がどのようにこの新しい技術に向き合うべきかが語られます。機械学習技術が一般に使われるようになってきていますが、これは汎用的な技術でありあらゆる産業に大きな影響を与えると見込まれます。自分の業種・職種の将来に不安を覚えている方や、大学での専攻分野に悩んでいる方などは学ぶべきことが多い書籍だと思います。