書評

【書評・感想】統計の歴史【数字が全てではないという批判に対する反論】

2021年8月8日

書籍

統計の歴史

統計の歴史
オリヴィエ・レイ(著)、原 俊彦(監修)、池畑 奈央子(翻訳)
原書房 / 2020年03月24日

評価 :5/5。

書評

統計に対する批判は「数字が全てではない」とか「統計がすべてを反映しているわけではない」というものです。一方で現実を把握するために統計が必要不可欠であることは変わりません。本書の目的は統計がヨーロッパで発達してきた歴史を追うことで、統計の知識を深めることです。

本書は16世紀の人口調査から統計の歴史を始めています。当時は人間の数が王政の富と権力の基盤となっており、この人口調査が全数調査の始まりでした。17世紀には共同体が崩壊して都市化が進む中で、権力者だけでなく一般市民も統計に興味を持ち始めます。19世紀に入ると自由平等の原則が貧困をもたらしていることが分かります。貧困は社会の発展と不可分で、富裕層と貧困層に二極化しているという21世紀の現在と同じ構造が既に19世紀に起こっていたことが述べられています。

その他にも文学との関わりや、自然科学としての統計学の発展の過程などにも紙面を割いており多角的な視点から統計の歴史を学ぶことができます。特に統計に対してネガティブな考え方を持っている人にこそ読んでほしい一冊です。最後に統計が批判される理由について引用しておきます。

要するに、統計が好ましく思われていないのは、私たちは統計によって個人主義の矛盾に直面させられるからである。一つには、個人というのは自分の欲望に従いたいのが普通で、社会の掟に服従したい訳ではない。しかし同じような人間が何百万人と共存しているので、社会全体の状況を知るには、全員の行動を足して集計するしか他に方法がない。そしてこれを行なっているのが統計なのである。