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【投資アノマリー】株式は5月に売却すべきか(米国ETF編)【セルインメイ / Sell in May】

2021年5月5日

はじめに

Sell in Mayは投資アノマリーとしてよく知られいますが、今回はこれが本当に正しいのか検証してみたいと思います。まずはSell in Mayの定義から確認します。Wikipediaでは下記のように記載されています。

Sell in May and go away is an investment strategy for stocks based on a theory (sometimes known as the Halloween indicator) that the period from November to April inclusive has significantly stronger stock market growth on average than the other months. In such strategies, stocks are sold at the start of May and the proceeds held in cash (e.g. a money market fund); stocks are bought again in the autumn, typically around Halloween. "Sell in May" can be characterised as the belief that it is better to avoid holding stock during the summer period.

https://en.wikipedia.org/wiki/Sell_in_May

ざっとまとめるとポイントは以下の通りです。

  • 11月から翌年4月いっぱいの成長率は平均的に他の月より高い(5月から10月は他の月より成長率が低い
  • 株式は5月初めに売却して現金(もしくはMMF)で保持しておく
  • 秋、特にハロウィーンの時期に買い戻すべき

より具体的には5月から10月の市場リターンは多くの国でマイナス、もしくは短期金利よりも低くなるというデータがあるようです。

Data show that stock market returns in many countries during the May–October period are systematically negative or lower than the short-term interest rate.

https://en.wikipedia.org/wiki/Sell_in_May

検証

前提条件

今回の検証は下記の前提条件のもとに行います。

  • 対象はVTIとQQQ(私が保有しているETF)
  • 5月始めに売却(便宜的に4月末の価格を使用)
  • 10月最終日の終値で購入
  • 短期金利はOECDのデータから5月時点のものを利用

仮説

Wikipediaに記載の内容が正しければ、5月始めから10月までの騰落率が短期金利に負けることが期待されます。もしそうなっていれば確かに5月初めに売却して10月まで短期金利で運用した方が良いということになります。

VTI

VTIから見ていきましょう。VTIは設定日が2001年5月31日なので2002年から2020年までのデータを使用します。4月末から10月末の騰落率と短期金利の比較すると下記にようになります。騰落率が短期金利に負けている年は橙色&太字にしています。

対象年4月終値10月終値騰落率短期金利
2002年$50.69$38.38-24.3%0.76%
2003年$43.12$47.7510.7%0.51%
2004年$53.43$53.880.9%0.50%
2005年$56.45$60.687.5%1.34%
2006年$65.14$65.540.6%2.15%
2007年$73.58$76.584.1%2.21%
2008年$68.70$58.36-15.1%1.11%
2009年$43.93$53.5922.0%0.24%
2010年$60.89$58.37-4.1%0.19%
2011年$70.58$57.72-18.2%0.09%
2012年$71.80$73.782.8%0.12%
2013年$82.26$87.656.6%0.08%
2014年$97.53$101.243.8%0.05%
2015年$107.91$98.72-8.5%0.06%
2016年$106.33$111.334.7%0.24%
2017年$122.93$130.205.9%0.44%
2018年$136.33$149.889.9%0.90%
2019年$150.39$151.000.4%1.02%
2020年$145.84$170.3116.8%0.07%
平均1.39%0.63%
Sell in May検証結果(VTI)

VTIを保有し続けた時に値上がりした年が12年、短期金利で運用した方が良かった年が7年です(12勝7敗)。平均するとVTI保有を続けた時の騰落率1.39%に対して短期金利は0.63%となっており、特に5月に売った方が良いということはなさそうです。

VTIの年間騰落率の平均が8.72%なので確かにこの期間の騰落率は相対的に低いというのは言えるかも知れません。ただし、マイナスになるわけでもないので売却した方が良いということはないと判断できます。

QQQ

次はQQQです。QQQは設定が1999年3月10日なので1999年から2020年までのデータです。VTIと同様に4月末から10月末の騰落率と短期金利を比較します。

対象年4月終値10月終値騰落率短期金利
1999年$53.72$60.1912.0%2.05%
2000年$95.63$86.75-9.3%2.80%
2001年$46.15$28.73-37.7%1.68%
2002年$31.73$20.72-34.7%0.76%
2003年$27.45$32.4218.1%0.51%
2004年$34.77$35.141.1%0.50%
2005年$35.12$39.4612.4%1.34%
2006年$41.44$40.14-3.1%2.15%
2007年$45.96$52.0013.1%2.21%
2008年$47.21$38.91-17.6%1.11%
2009年$34.28$42.2523.2%0.24%
2010年$49.24$49.07-0.3%0.19%
2011年$58.97$52.49-11.0%0.09%
2012年$66.76$68.472.6%0.12%
2013年$70.72$78.8811.5%0.08%
2014年$87.39$98.7913.0%0.05%
2015年$107.63$101.76-5.5%0.06%
2016年$106.72$118.7211.2%0.24%
2017年$137.20$145.586.1%0.44%
2018年$160.94$186.1715.7%0.90%
2019年$189.54$188.81-0.4%1.02%
2020年$218.91$277.8426.9%0.07%
平均2.16%0.84%
Sell in May検証結果(QQQ)

QQQを保有し続けた時に値上がりした年が13年、短期金利で運用した方が良かった年が9年です(13勝9敗)。平均するとQQQ保有を続けた時の騰落率2.16%に対して短期金利は0.84%となっており、こちらもVTIと同様に5月に売った方が良いということはなさそうです。

結論

少なくとも私の保有しているETFであるVTIとQQQについては5月に売却すべきと言えるほど短期金利に負ける年が多いわけではありませんでした。また、負けている年にはITバブル崩壊(2001年〜2002年)やリーマンショック(2008年)などを含んでおり5月から10月という期間に関係なく相場が弱かった年を含んでいます。仮説は必ずしも成り立っていないと言えそうです。

一方で5月〜10月のリターンが11月〜4月と比較して弱いというのは正しそうです。とはいっても騰落率がマイナスになっているわけでもなく、短期金利に負けているわけでもないので平均的には持ち続けていた方が良いと判断できます。

考察

おそらくSell in Mayは昔は当てはまっている年の方が多かったのではと推測します。例えば20年前までは短期金利が2%前後だったのに対し、ここ10年くらいは1%を下回っています。2%を期待できるのであれば短期金利で運用することも選択肢の一つになり得ますが、0%台しか期待できないのであればわざわざ売却するほどでもないかなというのが私の感想です。