書評

【書評・感想】The Intelligence Trap【知能と合理性の相関は極めて低い】

2021年5月6日

書籍

The Intelligence Trap(インテリジェンス・トラップ) なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか (日本経済新聞出版)

The Intelligence Trap なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか
デビッド・ロブソン(著)、土方 奈美(翻訳)
日経BP / 2020年07月23日

評価 :4/5。

書評

本書の目的はなぜ優秀な人々が愚かな行動をとるのかを明らかにし、このような過ちを防ぐための教訓を示すことです。知能の定義を理解することから始まり、学校で教育されている知能とそうではない要素を分離することでこの問題に回答を与えるという構成となっています。

特に興味深いのは学校教育で重視されている知能(つまり勉強)と合理性の間の相関が極めて低いということです。本書では認知バイアスやリスク認識、サンクコストなどいくつかの側面から述べられていますが、相関係数が0.1〜0.5程度となっており印象よりもかなり低い値です。高学歴の人はもちろん専門家が、必ずしも合理的な判断を下せるとは限らないということになります。

ここでいう合理性とは、与えられたリソースをもとに目的達成に向けて「最適な」判断を下す能力、証拠や論理、健全な推論によって考えをまとめる能力を指す。

The Intelligence Trap

行動経済学で明らかになっているようなバイアスからは知能の高い人も逃れられないということがよく分かります。合理性を高めるためには、他者視点で物事を捉えるとか一呼吸置いてからもう一度考えるといったテクニックが重要になります。本書では西洋人とアジア人(特に日本人)との比較も述べられていますが、日本人はその文化的背景から総じて多角的な視点で物事を捉える環境で暮らしており、自然と合理性を高める訓練を積んでいるようです。

外国語で考えることのメリット、好奇心の重要性、効果的な学習方法など合理的決断を促すための方法だけでなく既存の教育で教えられる知能の効率的な向上方法についても述べられており、学習方法に興味のある方にはお勧めの内容です。